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福岡高等裁判所 昭和55年(行コ)5号 判決 1983年11月14日

控訴人

靏野正雄

控訴人

矢加部正義

控訴人

後藤秀夫

控訴人

横溝隼一

控訴人

久保正子

右控訴人ら訴訟代理人

伊藤祐二

藤井克己

岩本洋一

被控訴人

筑後市長

田中虎市

右訴訟代理人

国武格

山口英尚

被控訴人

右代表者法務大臣

秦野章

右指定代理人

野崎彌純

外一〇名

主文

控訴人らの本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは「1原判決を取消す。2被控訴人筑後市長が被控訴人国及び福岡県に対し、昭和四九年度農業委員会の委員及び職員に関する経費のうち一八三三万九、四〇〇円につき何らの請求措置をとらず財産の管理を怠つたことが違法であることを確認する。3被控訴人国は筑後市に対し一八三三万九四〇〇円及びこれに対する昭和五一年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。4訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決及び第3項についての仮執行の宣言を求め、被控訴人らは主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は次のとおり訂正、付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決事実摘示の訂正<省略>

二  控訴人らの主張

1  本件経費にかかる負担金の根拠規定である地方財政法(以下「地財法」という。)一〇条は「農業委員会に要する経費」と表現し、これについては「国が、その経費の全部又は一部を負担する。」と規定しているのみである。

すなわち、地財法一〇条からみるかぎりでは国は同条列挙の経費については一部負担するのみでも適法である。したがつて、「農業委員会に要する経費」については一部負担するにすぎなくともよいと解せられる。しかしながら、地財法一一条の規定を受けて負担金の算定が明確に、一義的にできることを目的として設けられた農業委員会等に関する法律(昭和五一年法律第六五号による改正前のもの、以下「農委法」という。)二条一項は、「農業委員会に要する経費」のうち、とくに本件経費である「農業委員会の委員及び職員に要する経費」と「都道府県農業会議の……会議員及び職員に要する経費」の二種類についてのみ国は負担金を出すと定めているのである。すなわち、「農業委員会に要する経費」の中には大きくみてもいわゆる人件費関係経費と業務関係経費(事務費)とあるが、そのうち、人件費関係経費のみについて負担する旨定めているのである。

かかる規定の形成からすれば、農委法二条一項は、本件経費については国が実支出額全額につき負担金を出すことを定めた規定と解釈されなければならないのは当然である。

右のとおり国は本件経費については、地財法一〇条、農委法二条一項一号にもとづき実支出額全額につき負担金を支出すべき法的義務があり、確定的な債務を負担していると解されるのである。

したがつて、補助金等に係る予算執行の適正化に関する法律(以下「適正化法」という。)にもとづく交付決定がなければ具体的な債務は発生しないとの国の主張は、地財法一〇条、一一条、農委法二条一項の解釈を誤つたものであり、負担金の性格を理解しない主張といわなければならない。

2  本件で問題となつている農業委員会の委員及び職員に要する経費について、控訴人らは実支出額全額を国が負担すべきことを主張するのであるが、かりに、右解釈が妥当でなく、原審判決のごとく、農委法二条一項の規定を行政庁の自由裁量により負担金を定めることを認める趣旨と解するとしても、その裁量は合理的な範囲でなければならないことは言うまでもない。

そこで、本件経費は何割以下の場合に合理性を越えた裁量と考えるべきかを検討すべきである。

その場合、負担割合を明確にすべき法規が欠けている以上、同位法規、上位法規を検討して、明らかにすべきである。

本件経費について、国が負担金を出す根拠は言うまでもなく地財法一〇条である。

ところで、地財法は公共的事務を(イ)主として地方公共団体の利害に関係ある事務(九条)、(ロ)国と地方公共団体の双方の利害にある事務(一〇条、同条の2、3)、(ハ)もつぱら国の利害に関係ある事務(一〇条の四)と、事務の性質から三種類に分類して、国と自治体との費用負担の仕組みに差異を設けている。

右の趣旨からすれば、地財法が一〇条において列挙する各種事務は同性質(費用負担を決定する面で)の事務とみていることは明らかである。

そこで、地財法一〇条が列挙する各項目の中で、本件と同じく、人件費について負担金を出すこととなつているもので、かつ、明確に負担割合を定めているものをみると次のとおりとなつている。

(イ)(一号の経費) 教職員の給与等……実支出額の二分の一(義務教育費国庫負担法二条)

(ロ)(三号の経費) 保健所職員の給与……三分の一(保健所法一〇条)

(ハ)(四号の経費) 予防接種を行う医師への報酬……二分の一(予防接種法二二条)

(ニ)(六号の二の経費) 麻薬取締員に要する費用……全額(麻薬取締法五九条の二、一項)

(ホ)(七号の二の経費) 婦人相談員に要する費用……一〇分の五(売春防止法四〇条二項、三八条一項二号)

(ヘ)(一三号の経費) 病害中防除所の職員、病害中防除員、発生予察事業に従事する都道府県職員に要する経費……二分の一(植物防疫法三二条七項、三四条二項)

(ト)(一五号の経費) 農業改良研究員の設置費……三分の二(農業改良助長法二条二号)

(チ)(一七号の経費) 評価人の手当及び旅費……全額雇い入れた獣医師に対する手当……二分の一(家畜伝染病予防法六〇条二号、三号)

(リ)(二〇号の経費) 林業専門技術員及び林業改良指導員の設置費……二分の一(森林法一九五条)

森林法一九二条の事務に従事する職員給与……二分の一(森林法一九六条)

(ヌ)(二二号の経費) 漁業調整委員会、内水面漁場管理委員会費委員手当……全額(漁業法一一八条)

(ル)(二七号の経費) 国土利用計画法施行令二三条二、四、五号の事務に従事する職員……二分の一(国土利用計画法施行令二三条六号)

以上の各負担割合からみると、事業費に対する負担率と比べ、人件費に対するものは高率となつており、最高は全額で最低のものでも二分の一の負担率となつていることがわかる。

かかる各法規の定めからすれば、二分の一を下回る負担割合を実施することは、合理的裁量の域を出るものと言わざるを得ない。

したがつて、本件経費についても国は少なくとも二分の一を負担すべきである。

3  仮に、右二分の一を負担すべきであるとの解釈が認められないとしても、控訴人らは、次のとおり主張する。

国は、本件経費に対する実質的負担方法として、農林水産省(以下単に「農林省」という。)所管の負担金のほかに、自治省所管にかかる地方交付税による補助を行なつている。

ところで、自治省の右交付税算定の方法基準は、平均的モデル(標準団体行政規模)を設定し、その吏員の給与につき、三分の一は負担金により市町村に支出されているので、残りの三分の二を地方交付税によつて補助を行うとの算定方法をとつている。

つまり、本件経費についての地方交付税額の算定をするうえで、自治省は、農委法二条一項に基く負担金として、農林省において三分の一の額を支出していることを前提としているのである。

右事実から推論すれば、本件経費のうち、農林省所管の負担金としては三分の一の額を支出すべきものと、国は考えていることが明らかである。

よつて、かりに二分の一の負担をすべきであるとの主張が認められないとしても、国自身が算定の基準とする三分の一については、本件経費に対する負担金を支出すべきである。

4、5<省略>

三  被控訴人国の主張

1  控訴人らは、地方財政法一〇条各号に掲げる経費のうち人件費について法令に定める負担割合をみると、少なくともその二分の一を国が負担するようになつており、それに比べて本件経費についての国の負担の程度は小さすぎると主張するようである。

しかし、これは、これらの経費についての国の負担の仕組みを十分理解していない主張である。

すなわち、そもそも、控訴人らが列記する経費の負担について法令の定める割合は、関係規定をみれば容易に理解できるように、多くの場合、実際の支出額に対する割合ではなく、法令あるいは国の定める一定の基準に従つて算出された額に対する割合なのである。したがつて、筑後市に交付された本件経費の負担額の、筑後市農業委員会が実際に支出した額に対する割合を、右法令で定める負担の割合と比較して、その大小をうんぬんすることは全く意味がないことである。

しかも、本件経費についての国の負担の程度は、控訴人らが列記する経費の負担について法令の定める割合に比べて決して小さいものではないのである。地方財政法一〇条に基づいて国が負担しなければならない経費は、地方公共団体又はその機関が①「法令に基づいて実施しなければならない事務」であつて、②「国と地方公共団体相互の利害に関係がある事務」に要する経費のうち、③「その円滑な運営を期するためには、なお、国が進んで経費を負担する必要がある」ものである。(同条柱書き)。したがつて、右条項の上から国が負担しなければならない「農業委員会に要する経費」とは法六条一項に規定するいわゆる法令事務に要する経費に限定されることは明らかである。現行の農業委員会等に関する法律施行令一条一項一号も、法二条一項一号にいう「農業委員会の委員及び職員に要する経費」のうち国が負担するのは「農業委員会の委員の手当及び職員の給与費につき農林水産大臣(以下「農林大臣」という。)が法六条一項に規定する事項に関する事務の内容及び量等を考慮して定める基準により算定した額に相当する額」と規定することによつて、右の趣旨を明らかにしているのである。

すなわち、右政令の規定は、委員手当及び職員給与費のうち農林大臣が定める基準により算出された法六条一項の法令事務に要する額に相当する額の一〇分の一〇を国が負担することとしていると解することができ、現実の運用もそのようになされている。したがつて、本件経費についての国の負担の程度は、控訴人らが列記する経費の負担について法令の定める割合に比べて何らそん色ないばかりか、むしろ手厚いということができるのである。そして、昭和四九年度に適用されていた法の規定においては、国が「毎年度予算の範囲内において」本件経費を負担することとし具体的な負担の仕方について行政庁の裁量を許す形となつていたが、当時においても現実の運用は、基本的には現行法におけるものと同様な扱いをしていたのである。

2  控訴人らは、地方交付税算定基礎の標準モデルにおいては農業委員会費のうち吏員の給与についてはその三分の一を国が負担することとして想定されているので、本件経費のうち少なくとも三分の一は国が負担すべきである旨主張するが、この主張は地方交付税に関する仕組みを十分理解していないものといわざるを得ない。すなわち、前記標準モデルというのは、まず歳出として、農業委員会に要する経費として前述した法令事務(法六条一項)と本来地方公共団体が独自の財源をもつて処理すべき任意事務(法六条二項・三項)とを区別することなくその両者について吏員の給与費をはじめその他の経費が計上され、歳入として、国の負担に係る金額及び国庫補助金が計上された上で、その差額が計上されているものである。この差額は、地方交付税の交付額の算定過程においてその算定の基礎をなすものにすぎず、このような基礎に基づき算定され、交付された地方交付税は当該地方公共団体においてどのような経費に充当されようとも自由なものである。

したがつて、前記標準モデルにおいて農業委員会の吏員の給与費の三分の一については国の負担による歳入があつたものとして想定されているとしても、このことは本件経費に係る国の負担割合をどのように解すべきかという問題とは直接関係がないのである。<以下、省略>

理由

一被控訴人筑後市長に対する請求について

1  控訴人らがいずれも福岡県筑後市の住民であること、筑後市は、農業委員会の委員及び職員に要する経費(本件経費)につき昭和四九年度に二一一七万五四〇〇円を支出したが、被控訴人筑後市長は、福岡県知事に対し右経費のうち二八三万六〇〇〇円のみにつき補助金交付申請をなし、同金額を受領したが、残額一八三三万九四〇〇円については補助金交付申請をしていないこと、及び控訴人らがその主張のとおり監査請求を経たことは、当事者間に争いがない。

そして、被控訴人筑後市長が昭和四九年度分の補助金を受領した経過につき、<証拠>を総合すると以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(一)  農委法二条一項によれば、国は毎年予算の範囲内において、農業委員会の委員及び職員に要する経費(本件経費)を負担するものと規定されているが、その負担の仕組みについての具体的な規定を置いていないので、農林大臣は実際にどのような形で国が負担するかは、所管行政庁の行政的裁量にゆだねられているものとして、農業委員会等補助金交付要綱(昭和三八年四月一日付、三八農政A第五六四号、農林事務次官依命通達)を定めている。

右要綱によれば、本件経費は、毎年度の国の歳出予算において都道府県農業会議の経費等と一括して〔目〕「農業委員会費補助金」に計上され、その交付手続については間接補助方式がとられ、国が直接市町村に交付するのではなく、都道府県を通じて交付されることになつている。

農業委員会補助金は、農林大臣の委任をうけた各地方農政局長(九州全県については九州農政局長)が国から各県への交付事務を処理し(昭和三八年五月一日農林省告示第五五二号)、各県への交付額を決定する。そして福岡県は各市町村への交付額を決定し、その交付手続は福岡県農業委員会補助金交付規程(昭和四一年八月二日付、福岡県告示第六一一号)によつてなされている。

(二)  本件で問題となつている筑後市の昭和四九年度分本件経費も右のような手続によつて、交付されたものである。

すなわち、国の昭和四九年度予算において、本件経費は〔目〕「農業委員会費補助金」に計上され、うち本件経費の総額は、六二億五三二一万九〇〇〇円であつたが、福岡県知事は、九州農政局長に対し、昭和四九年八月一四日付をもつて補助金一億六一八九万六〇〇〇円の交付申請をなし、同局長は同月二八日、右同額の交付を決定し、また福岡県知事は、昭和五〇年二月一三日付をもつて右補助金につき三四〇四万五〇〇〇円の追加交付の申請をなし、同局長は、同年三月六日右交付決定額を一億九五九四万一〇〇〇円に変更し、右金員を福岡県に交付した(なお右金員のうち本件経費の補助に係る額は一億六五七八万五〇〇〇円である。)。

一方福岡県知事は、前記規程に基づき被控訴人筑後市長に対し筑後市の昭和四九年度農業委員会経費中、国が負担する経費の限度額として三二〇万六〇〇〇円(そのうち本件経費に係る額は二八三万六〇〇〇円である。)を内示したので、同被控訴人は、右内示額をもつて筑後市が交付を受けうる限度額と考え、同額につき昭和五〇年二月二〇日付で交付申請をなし、福岡県知事は、同年三月二七日右同金額の交付決定をなし、右金員を筑後市に交付した。

2  しかして、前記総額六二億五三二一万九〇〇〇円の算定過程は、別紙のとおりであり、九州農政局長は、管下各県に対して、委員手当については、その額の五分の一は農業委員会数を、残り五分の四は農業委員数を、職員設置費については、その額の五分の一は農業委員会数を、残り五分の四は事務分量(耕地面積、農家戸数、事務処理件数による。)を勘案して交付し、福岡県に対しては前記一億六五七八万五〇〇〇円が交付された。

更に、福岡県は、県下各市町村(九七市町村(一〇五農業委員会))に対して、原則として委員手当については、その額の五分の一は均等割り、残り五分の四は農業委員数を、職員設置費については、その額の五分の一は均等割り、残り五分の四は事務分量(耕地面積、農家戸数、事務処理件数による。)を勘案して交付した。筑後市に対する前記二八三万六〇〇〇円は同市農業委員会の委員数二六人、所轄の耕地面積二五三〇ヘクタール及び農家戸数三三〇〇戸、事務処理件数六四二件に基づいて算定されたものである。

3 ところで、控訴人らは、被控訴人筑後市長において、本件経費のうち二八三万六〇〇〇円についてのみ補助金の交付を申請し、残額一八三三万九四〇〇円について補助金の交付請求又は不当利得返還請求ないし損害賠償請求などの何らの措置をとらなかつたことが、地方自治法二四二条一項所定の「違法に財産の管理を怠る事実」にあたる旨主張する。

そこで、本件補助金の関係法規をみるに、地財法一〇条の一二号は、農業委員会に要する経費の全部又は一部を国が負担すべきものとし、同法一一条は右経費の種目、算定基準及び国と地方公共団体との負担割合は、法律又は政令で定めなければならないとしているが、農委法二条一項は、農業委員会の委員及び職員に要する経費につき「国は毎年度予算の範囲内において……負担する。」旨定めているのみであつて、他に国と地方公共団体との負担割合、算定基準を定めた規定は見当らない。

控訴人らは、負担割合、算定基準を定めた法令がない以上、国は地方財政の自主的かつ健全な運営を助長することに努め、いやしくもその自主性をそこない、又は地方公共団体に負担を転嫁するような施策を行なつてはならないとする地財法二条の趣旨からして、同法一〇条、一一条、農委法二条一項の規定自体から、地方公共団体は農業委員会の委員及び職員に要した経費については、その実支出額全額につき、国に対して負担金の交付請求権を有するものであり、適正化法所定の交付決定を経由する必要はない旨主張する。なるほど、地財法一〇条により、その全部又は一部は国の負担と定められた本件経費については、法令中にその負担割合、算定基準の規定が欠けているからといつて、国は経費の負担義務を免れることは出来ないのであつて、奨励的な意図に基づいて支出される国庫補助金とは区別されるけれども、国庫負担金交付の適正と公平をはかり、国庫予算の適正かつ効率的な執行を期するうえにおいて、各市町村が支出した本件経費がなんらの査定を経ることなく、地財法一〇条、農委法二条一項の規定自体からそのまま当然に国庫負担金として無条件に国が各市町村に交付すると解することは相当ではなく、右負担金の交付についても、法的規制を無視することはできない。殊に、農委法二条一項の規定のあり方についての批判はあつても、本件経費については、同法条が「国は毎年度予算の範囲内で……負担する。」と規定していることは前叙のとおりである。

しかして、適正化法は国庫負担金を含む補助金の交付の不正な申請及びその不正な使用を防止し、補助金等に係る予算の執行が適正に行われることを目的として制定され、補助金等の交付に関する基本的事項を定めるとともに、各省各庁の長が所掌の補助金等に係る予算を執行するに当り補助金等が公正かつ効率的に使用されるように努めるべき責務を明らかにし、補助金等に関しては他の法律等に特別の定めのあるものを除くほか、すべて同法の定めるところによるべきものとしているが、同法の趣旨、目的、その全体の構造からすると、一般に、国から補助事業者等に国庫負担金を含む補助金等が交付されるについては、まず所管の各省各庁の長による、交付要件の存否のみならず、交付すべき補助金等の額及び交付するに付すべき条件等についての審査、判断の経由を必要とするものであり、同法に定める交付申請に基づき交付決定(同法六条)がなされて始めて具体的な負担金請求権が発生するものと解される。(東京高等裁判所昭和五五年七月二八日判決、判例時報九七二号三頁参照)このように解すべきことは同法が、補助事業者等が交付決定の内容又はこれに付された条件に違反したときは、交付決定の全部又は一部を取消すことができ(同法一七条)右取消しがされた場合には、取消された部分につきすでに交付された補助金等について返還を命じなければならず(同法一八条一項)これを国税滞納処分の例により徴収することができる(同法二一条)と規定し、更に、補助金等の交付決定、その取消等補助金の交付に関する各省各庁の長の処分に対し不服のある地方公共団体は、処分の通知を受けた日から三〇日以内に右各省各庁の長に対して不服を申し出ることができ、(同法二五条一項)各省各庁の長の措置に不服のある者は更に内閣に対して意見を申し出ることができる(同法二五条三項)と規定していることからも裏付けることができる。

ところで、農林大臣はその所管の本件経費に係る「農業委員会費補助金」について支出負担行為や支払いをする権限を有し(農林省設置法四条一号及び二号)、右補助金の交付に当つては適正化法に従つて行うものとされているところ、適正化法は、国が補助金等をその交付の対象となる事務又は事業を行う者に直接交付する方式以外の方式、すなわち、国が国以外の者に対し、右国以外の者が行う給付金の交付に要する経費について補助金等を交付するいわゆる間接補助方式があることを前提に所要の規定を置いているのであるから、適正化法、地財法、農委法等に本件経費の補助方式につき具体的な定めがない以上、農林大臣が本件経費の負担につき間接補助方式を採用すると否とはその行政裁量に委ねられているとみることができる。それ故、農林大臣が、前記農業委員会等補助金交付要綱を定め、本件経費の負担につき適正化法のいわゆる間接補助方式を採用し経費等の補助率等を定めたことをもつて、控訴人ら主張のように違法ということはできない。

4 控訴人らは、地財法一〇条、農委法二条一項の規定の形式からすれば、国は、本件経費全額につき補助金を出す趣旨に解釈すべきであると主張するが、地財法一〇条一項は、地方公共団体が(1)「法令に基いて実施しなければならない事務」であつて(2)「国と地方公共団体相互の利害に関係がある事務」のうち(3)「その円滑な運営を期するためには、なお国が進んで経費を負担する必要があるもの」につき、その経費の全部又は一部を負担すると定め、前叙のように農委法二条一項は「国は毎年度予算の範囲内において……農業委員会の委員及び職員に要する経費(本件経費)……を負担する。」旨定めているのであつて、国が常に農業委員会の実支出額全額を、それが法令事務(農委法六条一項の事務)として支出を要するものか、任意事務(本来地方公共団体が独自の財源をもつて処置すべき事務、同法六条二項三項)として支出を要するものかを問うことなく、負担すべきものとする趣旨に解することはできない。現に、農委法の右条項は昭和五一年法律第六五号により「国は、政令で定めるところにより……農業委員会の委員及び職員に要する経費……を負担する。」と改められ、これをうけた同法施行令一条一項は、農委法二条一項の規定による国の負担は「各年度において、農業委員会の委員の手当及び職員の給与につき農林水産大臣が、農業委員会の事務の内容及び量を考慮して定める基準により算定した額に相当する額」についてこれを行う旨定めていることに徴しても、右改正前における農委法二条一項の規定は、本件経費について国の負担額は各年度の予算に応じ所管行政庁において、諸般の事情を考慮して具体的に決定しうべきことを定めたものと解するのが相当である。

5 次に、控訴人らは、農委法二条一項の規定を所管行政庁の自由裁量によつて補助金額を定めることができる趣旨に解するとしても、それは合理的な範囲のものでなければならないところ、地財法一〇条に列挙する各種事務が当該の法令により定められている負担率に徴すれば、本件経費についての国の負担率が二分の一を下廻るとき合理的裁量の域を出るものと主張する。

しかし、地財法一〇条一項に列挙されている各経費のうち控訴人らが本件経費の負担割合との対照のため引合に主張している経費負担についての法令の定める国の負担割合については、義務教育費国庫負担法二条が教職員給与費等につき「……その実支出額の二分の一を負担する。」と規定し、農業改良助長法二条が政府は「農業改良研究員の設置につき都道府県の要する経費についてその三分の二」につき補助金又は委託金を交付すると規定し、家畜伝染病予防法六〇条二号三号が、国は、都道府県知事又は家畜防疫員がこの法律を執行するために必要な費用のうち評価人の手当及び旅費の全額、雇い入れた獣医師に対する手当の二分の一につき負担する、と規定し、漁業法一一八条が国は漁業調整委員会に関する費用の全額を負担する、と規定しているが、他の経費については、関係法令の規定をみれば明らかなごとく、法令あるいは所管行政庁の定める一定の基準に従つて算出された額に対する割合を示しているにとどまり、実支出額に対する割合を示しているものでないことが明らかである。そして「国は、毎年度予算の範囲内において……農業委員会の委員及び職員に要する経費(本件経費)……を負担する。」旨定めた農委法二条一項の規定は、前記の「……その実支出額の二分の一を負担する」と規定した義務教育費国庫負担法二条とは明らかに異なつており、また、前記農業改良助長法、家畜伝染病予防法、漁業法の法条の規定の形式とも異なつているから、筑後市に交付された本件経費の負担額の、筑後市農業委員会の実支出額に対する割合を、控訴人ら主張の右法令で定める負担割合と比較することは当を得ないというべきである。しかも、前叙のとおり、筑後市農業委員会の実支出額には、法令事務以外の、国が本来負担すべきものではないところの農業委員会の経費が含まれているのであるから、なおのことと言わねばならない。しかして、<証拠>によると、農業委員会等補助金交付要綱、福岡県農業委員会等補助金交付規程とも、農業委員会の組織に要する経費につき一〇分の一〇以内、農業委員会の業務に要する経費につき二分の一以内とする補助率を定め、現実の運用においては、農業委員及び職員給与費のうち農林大臣が定める基準により算出された農委法六条一項の法令事務に要する額の一〇分の一〇を国が負担していることが認められるのであつて、この点に控訴人らが主張するように、所管行政庁たる農林大臣がその委ねられた裁量の範囲を逸脱しているというを得ない。

むしろ問題は、農業委員会の事務のうち農林大臣が経費を負担すべき法令事務の割合をどのように判定し、これに如何なる基準単位、基準数量を乗じて補助額を算出するかにあると認められるところ、<証拠>によれば、昭和四九年度の予算措置の段階で、本件経費につき国が用いた基準は、委員手当関係では、補助対象人員を一農業委員会当り委員一五人、手当単価を一回一人当り一三〇〇円で年一三回とし、職員設置費関係では補助対象職員を一農業委員会当り一人、職員単位を一六一万四八二七円とした(但し、職員設置費関係は本土分、なお、別紙記載の農業委員会数三三三六は三四〇五と認められる。)ことが認められ、手当単価職員単価等はいずれも低額のきらいがあり、また補助対象職員数も、<証拠>に徴すれば、実態に則していないむきも窺えないではないが、本件に顕われた全証拠によつても、未だ、被控訴人国が予算措置の段階で用いた基準が、行政庁に委ねられた裁量の範囲を逸脱したものと認めることはできない。ただ、農業委員会費補助金の場合、地財法が負担金の費目を挙げるだけで、法令において算定基準と国庫負担率を明示していないので、前叙のように行政庁の裁量に委ねられていると解さざるを得ないが、そのため国庫財政の事情や行政庁の裁量如何によつて、補助対象の割合、基準単位、基準数量が左右され、地方財政の基礎が不安定になり、その自律性が失われることは否めないのであるから、地財法二条の趣旨にそつて国庫負担制度が合理的、客観的かつ安定的に実施されるために、行政当局の配慮が望まれることは言うまでもない。

6 次に、控訴人らは、被控訴人国は、本件経費の補助について自治省所管にかかる地方交付税の算定の方法基準と同一程度の補助をなすべきであり、筑後市農業委員会が支出した実額の三分の一を負担すべき旨主張するが、地方交付税の交付の仕組は、本件経費の補助金交付の仕組とは前提を異にしているのであるから、到底採用の限りではない。

7  そうであれば、被控訴人筑後市長としては、結局のところ、国及び県の所管行政庁により決定された額につき補助金(負担金)の交付を受けるほかはなく、その交付の手続についても、前記のとおり諸規程が定められ、これに基づいて統一的に処理がなされているのであるから、昭和四九年度の筑後市の本件経費につき前叙のような経緯で具体的な国の負担額が定められて被控訴人筑後市長に内示された以上、同被控訴人が所定の手続に従い右内示された額について補助金交付申請をなしたことに何ら違法の廉はなく、また、実支出額と負担金交付額の差額につき補助金(負担金)交付請求をしないことをもつて同被控訴人が市長としての職責を違法に怠つているものということはできない。

もつとも、控訴人らは、被控訴人国は不合理な負担金を内示し地方自治体をして被控訴人国の不合理な内示に従うよう強要している点に違法があると主張しているけれども、前叙のとおり、本件経費に対する予算措置が一定の補助基準に基いて積算されたものであるから、これを全国の自治体に計画的、能率的にかつ公平に適正配分するには内示の方式を採る必要が生ずることは明らかであつて、その内示額が前叙説示のとおり必ずしも不合理なものと断じ難い以上、内示に従わせるように行政指導することが不当違法なものとすることはできない。そして、内示に従わない補助金交付申請は事実上受理されないことから、直ちに被控訴人国が不合理な内示を強要していると断ずるを得ない。

8  控訴人らは、被控訴人筑後市長が福岡県及び被控訴人国に対し不当利得返還請求ないし損害賠償請求をしていないことも違法に財産の管理を怠るものであると主張するが、前叙のとおり、筑後市は福岡県知事が福岡県農業委員会等補助金交付規程に基づいてなした交付決定額の限度で本件経費の具体的請求権を取得しているにとどまり、控訴人ら主張の如く実支出額全額につき交付請求権を取得している訳のものではないから、筑後市農業委員会の実支出額から右交付決定額を控除した残額につき、筑後市が損害を被つていることにはならないというべきである。なお、控訴人らは、被控訴人国が筑後市農業委員会の実支出額の一割程度の補助金を交付して筑後市に超過負担を発生させていることが違法であるとし、その違法原因を主張するが、その主張する損害賠償請求の損害の内容は、筑後市農業委員会の実支出額から筑後市が本件経費に対する補助金として交付を受けた金額を控除した残額の全部ないし一部であるところ、前叙のとおり、筑後市は適正化法に基づく交付決定を受けて始めて具体的請求権を取得するものであつて、筑後市農業委員会の実支出額がそのまま国の負担となるものではないから、筑後市が前記の交付決定を受けた額を超えた部分に損害の生ずる余地はないというべきである。従つて、控訴人らの主張の違法原因につき、これまでに説示したほかに、立入つて判断する要はない。被控訴人筑後市長が福岡県ないし被控訴人国に対し不当利得返還請求ないし損害賠償請求をなしていないことをもつて違法とはいえない。

控訴人らは、更に、被控訴人筑後市長が福岡県及び国に対し、その他の何らかの措置をとらないことをもつて、違法に財産の管理を怠るものである旨主張するが、とるべき措置の内容を具体的に特定していない点で、右主張は失当である。

それ故、控訴人らの被控訴人筑後市長に対する怠る事実の違法確認の請求は失当といわざるを得ない。

二被控訴人国に対する各請求について

控訴人らの右請求は、いずれも筑後市の住民である控訴人らが、筑後市に代位して行う請求であることはその主張から明らかであるところ、被控訴人筑後市長に対する請求について説示したとおり、筑後市は被控訴人国に対して本件補助金交付請求権、不当利得返還請求権及び損害賠償請求権のいずれをも有するものではないから、控訴人らが筑後市に代位して行う右各請求はいずれも失当たるを免れない。

三よつて、控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件各控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(西岡徳壽 岡野重信 松島茂敏)

別紙<省略>

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